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一般の皆様へ

老視(老眼)とは

老視(老眼)の定義

●加齢による調節幅の減退:Age-Related Loss of Accommodationすなわち、老視とは「見える範囲が狭くなった状態」のことを言う。
●老視は何らかの介入が必要な疾患である。

老視矯正の治療法

1. 眼鏡:東京眼鏡専門学校 魚里 博

光学的治療法である眼鏡は、最も安全で安心できる第一選択肢の老視矯正法です。加齢に伴う調節力の減少は誰もが経験しますが、初期老視から高齢者まで一人一人の眼に合わせて、各人の屈折や調節の状態に応じた適切な眼鏡(遠近両用や累進屈折力レンズなど)で、うまく老視と付き合って行くことが出来ます。図-1には遠近両用眼鏡レンズの代表的なデザインを示します。通常の屈折矯正眼鏡でも、鼻眼鏡により近用付加度数効果で老眼鏡(リーディンググラス)を代用することも可能です。最近の累進屈折力レンズは、使用目的や機能などその選択肢が大幅に広がっており、また装用状態の多角的な測定が進み、それぞれの眼に合わせたインディビジュアルレンズやフレームとして最適化した眼鏡が選択できるようになってきました。

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2.  コンタクトレンズ:筑波大学医学医療系眼科 平岡 孝浩

コンタクトレンズ(CL)を用いた老視の矯正法に関しては以下の方法があります。

 

①低矯正

度数を遠方にしっかり合わせてしまうと近くがボケてしまうので、度数をやや弱めにして近くをカバーするという方法です。遠方を見たときの視力はやや低下しますが、その分、近くは見えやすくなります。通常の単焦点CL(度数が均一のレンズ)を用いて行うことができるので簡単です。

②モノビジョン

遠方も近方もくっきり見たいという方に有効な方法です。これも通常の単焦点CLを用いて行うことができます。片眼の度数は遠方に合わせて、他眼は近方に合わせるという方法です。うまくいけば両眼で遠くから近くまでをカバーできるので大変便利ですが、左右の焦点が異なるので、脳がその見え方に慣れるまで時間がかかったり、疲れやすくなったりすることもあります。不同視といって左右の見え方が違うためにどうしても受け入れられない方もいます。

③CLと眼鏡の併用

CLと眼鏡の併用を行っている方も多いです。つまり、基本的には単焦点CLで遠方矯正した状態で生活し、必要に応じて老眼鏡をかけるという方法です。ライフスタイルにより利便性が異なりますが、たとえば職業運転手などで遠方を見ることが殆どで、近方はたまにしか見ないという方は、その都度、眼鏡をかける方が便利ですし、遠くも近くもはっきり見えます。ただし、デスクワークが多いなど、近方の作業が多い方には向きません。逆に普段はCLで近方に合わせて、遠くを見る時だけ眼鏡を上からかけるという方もいます。

④多焦点CL

多焦点CLには様々な種類があるので注意が必要です。2重焦点レンズといって遠方と近方の2つの度数が入っているもの、累進焦点レンズといって遠方から近方まで徐々に度数が変わっていくもの、また焦点深度拡張レンズといって複数の度数が配置されており非周期的(不規則)に度数が変わっていくものもあります。度数の配置も様々で、セグメント型(交代視型)といってレンズの上方に遠用度数、下方に近用度数が配置され、視線を上方と下方へ振り分けることで遠方・近方と使い分けるタイプもありますが、最近では同心円型(同時視型)といって、レンズの中央から周辺に向かって同心円状(リング状)に移行していくタイプが多くなっています。これらのデザインでは視線を上下に振りわける必要はなく、さまざまなエリア(度数帯)を通過した像を同時に見ることになり、シチュエーションに応じて最も見たい距離の映像を脳が選択するということを行っています。遠方~中間~近方と広い範囲をカバーできるので大変便利ですが、鮮明度が落ちるのでシャープな映像(くっきりとした見え方)は期待できません。

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3.  屈折矯正手術(多焦点眼内レンズ):みなとみらいアイクリニック 荒井宏幸

老視の手術的な治療方法としては、2種類の方法があります。1つは「モノビジョン法」で、もう1つは「多焦点眼内レンズ」を使う方法です。

①モノビジョン法

レーザーで近視や乱視を治すレーシックという手術があります。そのレーシック手術を使って、片目を遠くに合わせ、もう片目を近くに合わせるように目の度数を調整します。両目で見ると脳が見やすい方の目の情報を選ぶので、遠くも近くもメガネなしで見えるようになります。図1 モノビジョンの見え方に合わない人もいますので、手術前にメガネやコンタクトレンズでシミュレーションすることが大切です。またレーシックが受けられない目の人はこの方法を選ぶことはできません。

②多焦点眼内レンズ

老視の原因である水晶体を多焦点眼内レンズに置き換える方法です。手術は白内障手術と同じやり方ですが、通常の白内障手術では単焦点レンズを使用します。多焦点眼内レンズも以前は2焦点(遠・近)が主流でしたが、最近では3焦点(遠・中・近)が開発され普及が進んでいます。図2 レンズの効果は半永久的ですが、夜の光が滲んだり、コントラストが悪くなることがあるため、手術前に主治医とよく相談して決めることが大切です。日常生活ではメガネは不要になることが多いですが、必要時には補助的にメガネを使うこともあります。

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​図1 モノビジョンの見え方

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​図2 白内障手術での単焦点レンズと多焦点レンズの違い

4.  老視の薬物治療: 慶應義塾大学薬学部衛生化学講座 中澤洋介

老視に対して、種々の方向から薬物治療が試みられています。その中で代表的な作用機序である瞳孔収縮効果と水晶体硬化抑制作用をもつ老視治療薬への試みについて概説します。なお、老視の治療薬は、現状においては国内では未承認です。

 

①瞳孔収縮効果

研究室レベルあるいは前臨床で試みられている治療薬のほとんどが瞳孔収縮(縮瞳)効果を基に老視治療効果を示すものです。瞳孔が縮瞳すると、眼に入ってくる光の範囲が制限され焦点深度が深くなり、物がはっきり見えるようになります。目を細めたり細い穴から物を覗いたりすると、物体がよく見えるのは、この効果(ピンホール効果)のおかげです。2022年6月現在、FDAに認可されている唯一の抗老視点眼薬(ピロカルピン点眼液)はこの縮瞳効果による抗老視治療薬です。

②水晶体の硬化抑制効果

老視発症メカニズムとして、加齢に伴う水晶体の硬化が知られています。硬化のメカニズムの詳細はあまり明らかにされていませんが、光酸化反応による水晶体タンパク質のジスルフィド結合(S-S結合)の増加もその一因であることが知られています。リポ酸コリンエステル点眼液は角膜でコリンとリポ酸に代謝され、リポ酸は水晶体内でデヒドロリポ酸に還元されます。ヒドロリポ酸が水晶体タンパク質のジスルフィド結合を減少させることで、水晶体の環境改善をはかるものです。

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リポ酸コリンエステル点眼液の作用機序

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